Roo's Labo

腕時計、ラーメン、読書、美術、ときどき仕事

不思議で刺激的な週末

土曜日のこと。5歳の娘がゴミ拾いをしたいと言い出す。とりあえず台所用の手袋(大人用なので大きい)とスーパーのビニール袋を持って近所の公園へ。公園に着くなり遊具で遊び始めたのだが1時間ほど経って帰る段になると「ゴミを拾っていない」と言い出した。トングのようなもので拾って手が汚れないならともかく手袋ありとはいえ手で拾うのは嫌だなあ・・・と逡巡している親を尻目に公園脇の街路樹にあるタバコの吸い殻やビール瓶の蓋など少しずつ拾っていく娘。15分くらい続けただろうか。途中で2人くらいの方から声をかけられた。スーパーの袋1/5くらいに達したところでまだ続けたがっている娘を制して家に帰った。手を洗って紙に何かを書き始める娘。Please take good care of the world.  という文言とともに、子供たちがゴミを拾う絵を描いているようだ。どうして急に思いついたのか解せないでいると、宿題の英作文に「週末何をしたか書きましょう」とあった。もしかすると活動の例としてゴミを拾うことを学校で教わったのかもしれない。ただ、たとえ教わったこととはいえ実際に街に出てゴミを拾う心理的なハードルはなかなか高いと思われ、自然体でゴミを拾う娘の姿をとても頼もしく感じた。

日曜のこと。隣のフラットに住んでいる娘の同級生とそのご両親が、我が家に来て夕食を共にすることになった。日本で家族親戚以外を家に招くことなどなく、おまけに英語環境ということもあってとても緊張していたのだが、いざやってみるととても楽しくあっという間に2時間超が経過した。料理は妻が頑張って手巻き寿司と唐揚げを用意してれた(特に唐揚げは好評だった)ので、私は少しでも会話を盛り上げるべく拙い英語で会話を振り続ける。お隣さんは英国に25年超住んでいるnon Japaneseだが、空手を嗜んでいて(7年間で極真空手の黒帯を取得したらしい!)、日本文化にも理解がある。特に興味のある沖縄の話。映画に出てくる珍妙な日本の描写。出身国の政治体制の話。出身国の学位がEU圏で認められず英国で再度4年間勉強して学位を収めた話や家族観、などなど。お酒の力もあってか、日本人同士では話さないようなトピックについて縦横に話ができたと感じる。同じ釜の飯、ではないが食事を共にすることで心理的な距離が縮まるのは外国も同じなのだなと感じた。お隣さんの子は娘の同級生でもあるので、これからも仲良く付き合って行けたら良いなと思った。

食事といえばカラバッジョのこの絵を思い出す(本文とは無関係)。

 

大切な本(吉田の日々赤裸々シリーズ)

どのように吉田プロデューサーを知ったかは覚えていない。おそらく、YouTubeを見ているときにランダムに再生されたファイナルファンタジー16に関するインタビュー動画で、恐ろしいほど明晰に「再建」のコンセプト、道のり、工夫等を自分の言葉でロジカルに語っている姿に惹かれたのだと思う。著書を3冊読み通して、動画を通じて得た印象は間違っていないとの思いが強くなった。

吉田さんは自分のことを「定義厨」と自称し、ミステリのファンであることを公言している。その通り、物事の全体像を、筋道立てて考え、文章を通じて極めて明晰に説明することに長けている。業界のこと。個別のゲームの設定のこと。吉田さんの趣味のスノーボードに関すること。あらゆるエピソードがご自身の理屈に沿って組み立てられている。決して独りよがりではなく、業界全体を見つめる視野と押し付けにならないオープンさがあって、そのスタンスに好感を持った。私自身はゲーム業界から遠く離れたところにいるが、吉田さんと仕事をしたらきっと刺激的で楽しいだろうなと思った。ゲーム業界そのものに興味はなくとも、仕事全般に対する考え方、仕事で成果を出せる人のスタンスを学ぶことに興味がある人にとっては面白く価値のある著作だと思う。

 

 

 

時間を管理すること(YouTubeから遠く離れて)

最近YouTubeを見るのをやめた。これを書いている時点で2週間くらい全く見ていない。最も子供の歯を磨くときにみる短時間のアニメ番組のような例外はあるが、自分自身の興味を満たす、あるいは、仕事や運動中にバックグラウンドで再生するのをやめてから大体それくらいの時間がたった。

巷間よく言われることだけれども、総じてポジティブな影響があったと思う(出なければ再び見始めている)。一番大きいのは心の平穏で、YouTubeを見ていた時は、無意識のうちに、番組の内容について考えたり、嫉妬したりと様々な感情を呼び起こされていた(きがする)。自分が想像する以上に、映像コンテンツの刺激は強くて、それを咀嚼するのに心身のエネルギーを使っていたのだと思う。YouTubeとの接触を絶って、文字通り心を乱される瞬間が減った。もちろん、腕時計の新作情報やレビューなど「最新情報」に触れられないデメリットはあるが、日々穏やかに過ごせることに勝るものはない。

一方で、上記の裏返しになるが、何か作業しているときに無音というのは自分の場合けっこう辛いものがある。今は、Podcastでニュース番組を聴いたり(英語のレッスンにもなる)、音楽を聴く(Amazonミュージックでランダム再生)ことでなんとかなっている。最近聞いた音楽では、キタニタツヤが良かった。自分の子供の頃に比べて、今の若い人はずっと歌唱力が向上している気がする。

なお、映像コンテンツ全般を禁じているわけではないので、Netflixで映画やドラマは普通に楽しんでいる。最近見たジュリアロバーツ主演の映画がとても良かったので、また感想を書きたい。

憧れの駐在生活(と故障が絶えないロンドンの家)

ロンドンに駐在して3年半程になる、と書くと、さぞかし洗練された歴史と文化の都で充実した日常を送っていることかと羨望の目で見られるかもしれない。しかしながら現実は、冷暖房のないおんぼろ電車で1時間かけて通勤し、日々の仕事の大半は日本語で日本人相手の対応をし(英語力は駐在前より悪化している感がある)、日本人と仕事帰りに飲みに行く生活である。大前研一が住む場所と時間配分を変えると人間が変わると語ったとされているが、今のところ住む場所が東京から1万3千キロ離れても、特に性格や人生観に大きな変化は生じていない。

そんななかでも、「これがロンドン(外国)の特徴か」と思うところはある。ものが古いというのはそのひとつで、今住んでいるフラットは日本人が多く住む伝統的な住宅街にあるのだが、およそ築50年ほどは立っていると思われる。ただ、内装はリノベーションをしていてフローリングの床は清潔、壁は白く見た目はそれだけの年数が経過しているとは思えない。のだが、とにかく物が壊れる。入居してほぼ2年間の間に、以下のものが壊れた(多すぎて覚えきれないので、順不同に紹介)。

  1. カーテンレール・カーテンの崩壊(リビングの大きな窓を飾る巨大なカーテンがレールごとみりみりと軋みを立てて落下する)
  2. ストーブ(スイッチ部分)の爆発(発熱しなくなったストーブのスイッチを切ろうとしたところ、やけどしそうな熱さ。慌てて原電をオフにすると【ボンッ】という音と炎を出して故障した)
  3. ダイニングの照明4つが全部消えたかと思うと二度とつかなくなった(丸ごと交換した)
  4. 便座がよく見たら割れていた。なかなかぴったりくるものがなかったのか、替えてもらうのに1か月くらいかかった(型番という概念がないようで、近いものを持ってきてくれるのだがフィットせずに持ち帰ることが数回繰り返された)
  5. 洗面所が詰まって流れなくなった(中から流した覚えのない大量の紙類が発見)
  6. ボイラーが故障。シャワーを含め一切お湯が使えない生活が2週間続いた
  7. シャワーヘッドが故障し、水漏れが止まらない
  8. 風呂桶の故障(排水溝の蓋がはまって動かず水が流れなくなる)
  9. キッチン水栓が故障し、排水が流れずたまっていく(現在進行形)

この文章を書いている今も、キッチンの排水は流れず悪臭が続いている(窓を開けている。寒い)。管理会社に連絡すると数日でHandymanを派遣してくれるし、生活に致命的な支障が出ることは幸い今のところない(シャワーに入れないのは割と不便だったが・・・)。常に何かが故障しているので、壊れてもまあそんのものかと鷹揚な気分になるのは、海外生活の一つのメリットかもしれない。排水が流れるようになって余裕が出てくれば、ロンドン生活の良いところも紹介したい。

かの有名なオフィーリアの絵。イギリスにはこのように美しいものもたくさんある



最近お気に入りの時計

オメガスピードマスタープロフェッショナルデイデイト。型番はおそらくref.3220.50。社会人なりたての2010年頃に購入したはずで、何だかんだ10年以上付き合っている。物持ちが良い方ではないので、身の回りにあるものでおそらく最も長く使っているかもしれない。

使いやすいのには理由があって、適度な重さと男前な顔立ち(日付、曜日表示に加え24時間計までギュッと詰まった感じが良い)。ロレックスのようにわかりやすい時計ではないので悪目立ちしない(ムーンウォッチのように王道中の王道ではないところも味があると考えている)。

ところで、最近ロンドンでは最近高級時計の強盗犯が増えているらしい。https://www.webchronos.net/features/107054/)。この時計もいわゆる高級時計には違いないのだが、10年以上前に家電量販店で購入したもので、そこまで警戒して気を張らず、気軽に着けている。出張先や家族旅行にもつけて行けるようになれば時と場所を選ばない真の相棒ということになるのだろうけれども、どんな状況にも対応できる万能の一本を追い求めるより、いろんな時計でポートフォリオを組む方が自然かなという気もしておりその辺は流れに任せて行きたい(何年かしたら自分の考え方も変わっているだろうし)。

久しぶりにブログを書いたな・・・。文章表現のリハビリとして、気が向いたときに続けて行きたい(完全に自分自身に向けた文章で、読み手のことを意識できてきて折らず困ったものである)。

英株式市場、落日の世界6位

しばらく前の日経新聞を読んで。

www.nikkei.com

欧州の他の都市を出張で訪れるだけでも、ロンドンの停滞感を実感することは多い。例えば、地下鉄を始めとする公共交通機関の貧弱さ(設備は古い。おまけに運行は不安定で突然キャンセルもしばしば。さらには頻発するストライキ)。ブレグジットだけが原因とは思わないけれども、自ら国境の壁を作り、世界中から優れたヒト・モノ・投資を受け入れるのとは真逆のスタンスを取った結果が、この行き詰まり感につながっていると思う。

記事後段でしてきされているように、これはそのまま日本にも当てはまると思う。イギリスにあるような地の利(英語圏コモンウェルスの領袖、世界最大経済のアメリカ合衆国に近い)もない日本は、なおさら国をオープンに開いて、世界とともに反映する姿勢が欠かせないのではないか。

村上春樹『街とその不確かな壁』

長かった。発売日から3週間位かかったけれど、読後感は爽やかで読んで良かったと思う(以下とりとめのない感想ですが、物語の核心部分に多少触れていますのでお気をつけください)。

最初は冗長で(全部を全部記述して説明しようとする感じでとにかく長い)、テーマに新規性がなく(結局中年になっても初恋の女性を忘れられずに懊悩する男の話かと思わせる)、手法や舞台設定も『世界の終わり』で登場した壁に囲まれた街の焼き直しで読み続けるか迷ったのだが、第2部の後半辺りから急速に物語がペースを上げ、惹き込まれるように読了した(今までの村上春樹的世界観を多少裏切るようなオチもあって、驚いた)。

読み終えて思うのは、「移動」をテーマにした物語だなということ。主人公は、壁の中の世界と現実を行き来する。東京(あるいは札幌)という都市を離れて福島の山間部に移動する。僕は年月を経て私となり、私の追いかけたテーマや役割は「イエローサブマリンの少年」に移り、継承されていく。

村上春樹自身の後書きにもあるように、あらゆる物事は移動し、移り変わっていて、その中にこそ「真実の姿」があるのではないか。過去の出来事に執着するのではなく、得体のしれない力や偶然に導かれたものだとしても、自ら移動を選択し、変わり続けていくことこそが、真実につながるのではないか(という印象を、私はこの物語を通じて受けた)。

齢70歳を超え、大ベテランと言われる年になってもなお、動き続けることがポジティブな希望をもたらすという物語を紡ぐ村上春樹のことがますます好きになったし、そのような読書体験ができてとても幸せだった。