Roo's Labo

腕時計、ラーメン、読書、美術、ときどき仕事

楠木建『好きなようにしてください』

『ストーリーとしての競争戦略』で有名な経営学楠木建さんが、読者からのキャリア相談に答える。Newspicksで連載されていただけあって、主に40代位までの中堅から若手社会人かつ「意識高め」の質問(大企業をやめてベンチャーに行くべきか等)が多い。

対する著者のスタンスは一貫している。大企業やベンチャーといったよくある世間的な対立軸(著者の整理では、環境決定論や組織に属している状態)を基準にするのではなく、自らの内なる声に耳を済ませ、自分の価値観を重視し、行動すべきというもの。前提として、キャリアは長期の時間軸で測られるもので、他人と比べられるものではない(=30〜40年後に振り返って自分自身で納得できるかが重要であって、他人と比べるべきでない)と説く。自らの価値観を具体化するためには、自分自身として何が好きなのか(より見つけやすいのは何が嫌いでやりたくないか)、具体的な挑戦・経験・アクションを通じて理解する一方、あつまった具体的な事実を、一段回上の抽象的な次元に整理していく。こうした具体と抽象の往復運動を通じて、自分自身のキャリア感(究極的には、何をすることが自分にとって幸せかという根源的な価値観)を深堀りすることができる。楠木先生の方針は上記のようにかなり確固としたものがあって、「好きにしてください」という回答はともすれば質問者を突き放しているように見えるのだが、実際には、焦って(短すぎる時間軸や、偽りの選択肢にとらわれずに)本質的に考え、意思決定することを促す愛のある回答だと感じた。全体的に柔らかいトーンで書かれていて(楠木先生の趣味である歌謡曲やアイドル、格闘技を用いたたとえ話も多い)、肩肘張らずに読めるのも良い。自分は社会人経験15年になろうとしているけれども、仕事の基本的なスタンス(仕事は徹頭徹尾相手方のためにするもので、自分のために行う趣味とは異なる)も含め、多くの気づきを得ることができた良書だと思う。