Roo's Labo

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Harvard Business Review 2021年1月号 ESG経営の実践

keizokuyumaさんの記事を読み惹かれたので読んでみた。

keizokuryoku.hatenablog.com

ESG経営に関する論文は全部で5本。そのうち、エーザイCFOの柳良平さんの手になるものがすごく良かった。具体的には、あいまいになりがちなESGを明確に定義ししたうえで、ESGを通じた非財務情報の充実が長期的に企業価値を向上させたことを、88のKPIを12年にわたり調査することで実証している。さらに、そうしたモデルと実証分析を、資本市場の有力な投資家に対し訴えかけることで支持を得ることに成功している(日本だけでなく、グローバルな投資家に対しそれを実現している)。

  • 企業価値(PBR)は、「会計上の価値」である純資産(PBR1倍までの部分)と、「見えない価値」である非財務資本(PBR1倍超の部分)とで成り立つ。
  • 非財務資本は、財務資本以外の5つの無形資産から成る。
  • 非財務資本は、PBRの1倍より高い部分に包含され、ESGと関係していると仮定する。

効果の見えにくいものは、測定できなければ実証・説明・説得できないのが世の通説ならば、自ら定義をつくり、モデルを組み立て、実証してみせるところに、アカデミズムと実務の強力なミックスをみて、唸ってしまった。

このモデルを借用すれば、筆者が携わっている人事分野の仕事であっても、それが長期的な企業価値の向上にどれだけ寄与しているか、定量的に実証・説明することが可能になりそうだ(実際に、同稿では、「女性管理職比率」や「育児短時間勤務の利用数」といった人事管理上のKPIをもPBR向上と相関関係があるKPIとして取り上げている)。

柳さんのご経歴を拝見するに、銀行やメーカー、証券会社でIR・財務部門に従事する一方、京都大学の博士号(経済学)も持っておられる。一般の実務家にはなかなかなさそうなモデル化や実証分析の技術など、アカデミズムを背景にした実務家という意味では、キャリアの観点でも大変魅力的なあり方だ。