Roo's Labo

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名和高司『パーパス経営』

『ハーバード・ビジネス・レビュー』での特集もあり、最近目にすることが多くなってきた「パーパス経営」。ミレニアル世代である筆者も自社はなんのために存在するのか、何のために働くのかといういわゆるパーパスの観点に興味があり、理解を深めるために読んでみた。

500ページを超える大著の主張をざっくりまとめると、

  • 「パーパス」は存在意義と訳すのはナンセンス。より主観的な「志」をもとにした経営とするのがしっくり来るというのが著者の考え。
  • 最近喧伝されているESGとパーパス経営は別物。 ESGや国連のSustainable Development Goalsは客観的・教科書的な正義に過ぎず、それらに取り組むだけでは自社ならではの価値創造はできない。
  • ESGのうちEnvironmentやSocietyはもともと収益性が低い(それ故に今まで企業が参入せず課題になっていた)。これら分野を収益化する上で欠かせないのがイノベーション(異質なもの同士の結合による価値創造)。
  • イノベーションを起こすために今後欠かせないのがデジタル化による自社・業界・顧客の進化と分断を克服し海外市場を創造するGlobals(複数形の)視点。あわせて、有形資産ではなく無形資産の活用が重要。

志に基づく経営について、原点となる志(目指すべき目標)の設定と実現に必要な組織・資産(無形資産の活用)の活用・情報発信による顧客・市場の創造まで全体像を概略的・概念的に掴無事のできる点は良いと思う。一方で、事例としてあげられている海外・国内7社は数が少なく説明も簡潔すぎるのでいまいち説得力に欠ける(主張に都合のよい会社を選んだのではないかと思える)。また、過度の日本信仰というか日本企業の復権や日本流に価値があるという著者の主張は、本を売るためなのか、いまいち理解できない(日本流だろうが海外流だろうが良いものは良いのであって、日本発であることにどれだけ意義があるのだろうか)。著者の自慢(マッキンゼーの戦略部門グローバルリーダーのひとり)や、好き嫌い(マイケル・ポーターに過度に否定的だが、学者としての知名度・影響力の大きさは客観的にみて著者の比ではないだろう)については本文の主張とは無関係で、このあたりは校閲でもう少し削ってほしかったところ。